プロフェッショナルインタビュー・後編

「行動するくらいなら、本を読みなさい。」と訴える波頭さん。

しかし、「行動することが大事」と多くの人が言うのも事実である。
波頭さんが思う、「真の行動」そして「一流の学生」ってどんなものなのでしょうか?



・薄っぺらい「行動」じゃなくて、体はって「行動」していますか。

波頭:
ほんとにごく一握りの人で、行動が一流の人もいると思います。

例えば、あの方。シリアで亡くなった山本美香さん。
もちろん学生ではないですが、世界で何がおこっているのかっていうのを自分の目で見て、それを伝えにいくっていう。

あの、体張ってやっているのが素晴らしいと思います

しかし、いわゆる「意識の高い学生達」は、こんなことをやっている私ってカッコいいよねっていう、非常に安っぽいナルシシズムとか、あるいは、もっと自己顕示を動機でやっていることが多いと思います。
やっていること自体に関しても、何一つ知らないし、ちょろちょろ走り回っていて行動している気になっているように見えます。






うーんなるほど。
体をはる、つまり「自分をすごくみせたい」とかいうナルシズムみたいなものが動機なんじゃなくて、「世の中に自分の問題意識(もしくは与えたい喜びなど)を持って立ち向かう覚悟」があるかないか。そこが動機になっているか。
それが大事だってことですね。

もし、その動機があったとして。
その上で社会に必要とされる行動や経験ってどんなものなんだろう。






・社会に必要とされる経験って、実はすごく広くて厚い。

波頭:
さっきの西ベルリン音楽学校の話にありましたが、Cの人達だって、AとBと同じように、時間は一週間に51時間やっている。

週に51時間やるってことは、普段の生活はほとんどそれしかやってないということです。
それでも、オーケストラの団員にもなれずに、高校の音楽の先生とかってになってるっていう。

つまりどういうことかっていうと、学生が思っているより、お金を稼いで、社会のひとつの仕事を担うために求められるスキルとか知識とか経験とかってすごく広くて厚いんです。

だから、学生さんのレベルで走り回るのって、商売で言えば学園祭の模擬店の域を脱していないんじゃないかって思います。
行動行動って言いますが、あなたが誰を動かせる、あるいは、何を起こせるって言った時に、なんか、大丈夫かなっていうレベルことしかやってない人は多いです。




「学園祭の模擬店の域を脱していないんじゃないか」。
こういう問題意識を持つことは、ドヤにならないため、一流を目指すために絶対に必要なことだと思う。


「あなたは誰を動かせる、あるいは何を起こせる」

学生時代にいわゆる「行動」をしていて、こんなこと聞かれたことあるかな?
波頭さんが求めている答えは、もちろん億単位、国を超えた規模の行動力。

かなり高いレベルの行動力を要求している波頭さんだからこそ、「学生レベルの行動」に警鐘を鳴らしていたのか。
高校時代よりずっと行動力がアップしたように感じる私達に対する

「体をはる覚悟があっての行動がプロだよ」
「プロにはもっと広くて深い経験が必要とされるよ、学生時代で満足しちゃダメ」

というメッセージを感じた。


そして
お話を聞いていると、学生として、将来につながる一流というものを目指すには、やはり学生の本分である勉強、そして読書をすることは非常に重要なことに思えてきた。

勉強は、世の中を教えてくれ、頭を鍛えてくれ、つまり全ての基礎能力になる気がするからだ。




・読書で、知的基礎能力をつける。

波頭:
もう、本当に道が決まっているなら、バイオリニストになりたいって8歳の時に決めて、ずーっとやってきた人達って言うのは、バイオリンの練習でいいと思います。
しかし、9割以上の学生にとっては、まだ自分はこの道に進むっていうのって、はっきり言って分からないのは当然だと思います。



分からないです・・・



波頭:
そのためには、勉強や読書を通じて、まず賢くなるとか、いろいろ世の中を知ってみることが大事です

更に、経営学でもいいし、工学でもいいし、あるいは歴史でもいいから、何かひとつのことをしっかり勉強することが知識の習得だけでなく人間の基礎能力としてとてもためになります。

外からの情報や、昔の人の知見を吸収して、それを自分の栄養とか、筋肉とか、自分のものにするって言うプロセスになるからです。
それに基づいて、自分なりのものの見方のスコープとかものを考えるための方法論を得ることになります。

例えば、サッカーで鍛えても、野球で鍛えても、多少の出来上がりの体は違うけど、すごくいい筋肉がしっかり体につきますね。
そして、基礎的な運動能力があがります。

それと同じように、どの勉強じゃなきゃいけないとは言わないので、経済学だとか、法律だとかなんでもいいから、しっかり勉強することによって、人間の知的基礎能力を身につけることができる。人間の知的基礎能力の骨格が出来あがるので、そのためにしっかり勉強や読書をしてほしいですね。
その能力は、社会人になってからずーっと、一生役に立ちます。





勉強を通じて、人生を組み立てる基礎能力を得る。筋肉をつける。

学生時代におもいっきし出来る勉強で、これからの人生の基礎を組み立てるのはすごく理にかなっているように思った。


行動の話が出たついでに、採用のお手伝いをしている波頭さんから、就活のお話も聞くことが出来た。

ここには、波頭さんが「下手な行動派」よりも「しっかりとした勉強派」を勧める更なる理由が隠されていたのである。



波頭:
今、一流企業は優秀な学生をとるために必死です。
企業は国際競争に勝っていくために、グローバル水準の能力を求められている。それは一人一人の人材の人的能力。
やはり圧倒的に優秀な人が欲しい。

それで、意識の高い学生(笑)みたいな、「ボランティアもやりました、学生ネットワークもつくりました」みたいな人は、実は軽く見られています。
このメッセージはぜひ学生さん達に伝えて欲しい。
これは実際にそう。
本当にそう。

本当にやっている人っていうのは迫力があります。
そんなこと言わなくても、この子どうしてこんなに迫力あるのだろうと思うと、すごい経験をしている子はいますが、自分はこんなんやりましたーあんなんもやりましたーっていうのって、はいはいお疲れさまでしたって感じです。

就活の相談に来た子には、エントリーシート100社も書いたりするのやめて、ただ本を読めって言います。
3ヶ月あれば100冊読めます。
今からでも3ヶ月って間に合うから、読んで、そしてタイトルと著者を全部覚えて、それで気に入った本、30冊ぐらいブリーフィングができて、しかも、3冊ぐらいは、お、これはひとつの卒論になるなってくらいの意見が言えるぐらいようにしろって言います。

そしたらたいていの企業は受かります。




その後、波頭さんが今までであった「一流の学生」2人について教えていただいた。
ノーベル賞を本気で目指している学生、新卒2年目で中国進出の責任者をまかされ、次々に国際的アライアンスを決めていった人・・・。
このぐらいのレベルが、本当の一流レベル。

二人とも、波頭さんと対等に話せるレベルの知識、論の展開をできるほどの優秀さだそうです。
(私は、「なるほど」「すごい」を繰り返すレベルです、残念ながら。)


一流の世界では、どんな人がいるのか、何が求められるのかを垣間見た一時間半でした。



●質問コーナー

①本を読むの本当に苦手です。楽しくすいすい読めるコツなどありますか?
本を読むのが苦手な人はどうしたらいいでしょうか?

波頭:
すいすい読めるようになるまで、まず読むことが大事です。

体を鍛えるのだったら、まずジョギングしなさいって言っているように、走るのが本当に苦手で、息も切れるし足も疲れるし、っていうのは、本を読むっていう最初のエントリーバリアの前でつまずいていいます。
それはとにかく読むことで乗り越えるしかない。



②日本には1000冊も読むべき本はあるのでしょうか?

波頭:
本は聖書1冊でかまわないって人もいます。
食事で例えれば、牛丼が好きなんで牛丼だけ食べていればいいんですよって人もいるので、それはかまわないですが、美味しいものが無限にあるように、面白い本、あるいはためになる本っていうのは無限にあります。

僕が1000冊って言ったのは、大学生4年間で1000冊読む人が、アメリカとか海外の一流の学生では珍しくないんだから、そのレベルで、頑張って読むといいよって言ったわけです。
読むべき本っていうのでいえば、1000冊どころか1万冊でも10万冊でもある、とも言えますね。                       


③数を読むことも非常に大事だと思いますが、1冊を繰り返し読み込むことも同じぐらい大事なのではないでしょうか?

波頭;
そう思います。
ただし、僕は普通の人よりはどっちかっていうと多く読む方ですが、僕自身の場合は、2回以上読む本は100冊に1冊くらいですね。
人生全体で何度も繰り返し読んだ本は10冊か20冊くらいのような気がします。

嶋田;
そんなに少ないんですか!

波頭:
あなたはどう、けっこうある?

嶋田:
はい、殿堂入りって名付けていますが、私の人生の見方が変わったっていう意味では、『秋元康の仕事学』『アルケミスト』っていう小説です。

波頭:
やっぱり繰り返し読む?

嶋田:
読みます、繰り返し読みます。
最初は、もう大事すぎて、線も引けなくて、ページも折れないっていう状態なんですが、何回も何回も読んで、だんだん線も引いて、自分だけの参考書みたいになるぐらいまで読んでます。

波頭;
そういう読み方ができるっていうのはいいですね。
何回も読みたいって思う本に出会って、で、それを自分の生き方とかものの考え方とか見方とかの座標軸にするんであれば、そういう読み方もとても良いと思います。

だけど、そうは言っても、1冊に出会うためにはいっぱい読まないと何回も読むべき本には出会えませんね。

学生時代4年間とはいいませんが、軽いライトノベルみたいなものではなく、例えば新書くらいの内容の本を、とにかくまず母数として、1000冊は読んでほしいです。
20代後半から30になるまでの間に。
やっぱり、それくらい読むと世の中にどういう本があって、自分がどういう本が好きで、自分にとってのいい本、つまらない本っていうのを判断する素養が出来てきます。


③「読む」とはどのくらいのクオリティーで「読んだ」ことになるんですか? 
 ざっと読んでそれで「読んだ」になるのか、しっかり全部読まないとそう言えないのか。指標というか、自分に「読んだ!」てOKサインだしていい目安とかありますか? 

波頭;
自分にとって、パニックゾーンの対象になるようないくら頑張っても理解できない本は、字面だけ追ってもそれは読んだことにはなりません。
書いてあること自体がきちんと分かること。
それが読んだっていうことですね。
きちんと分からないのにただ字づらを目で追うだけというのは時間の無駄だからやめた方がいいです。

でも、比較的本を読んできた人間でも、一ページ読んで理解するのに30分とか1時間かかるよような本もあります。
その意味では、難しいと思ってもすぐには逃げないことも大事ですね。

コンフォートゾーンばっかり、それこそライトノベルばっかりいくら読んでも、仕方がない。だから、ちゃんと自分が読むべき本、に関して逃げずにちゃんと分かろうとして読んでくださいっていうのが答えですね。

完璧主義の人であれば、ああこんな本読んでよかったって思える読み方すればいい。
全部分かんなくたって、7割しっかり分かって、なるほどって思えば、その人にとっては、その本を読む価値があるだろうし、あるいは逆にいうと、その人にとってレベルの低い本だったら、全部読んで分かったとしても、読まなくたって自分の人生変わんないよな、自分の教養変わんないよなって思うんだったら、それはあんまりためになってないですよね。





1時間半の間、西ベルリン音楽学校の話から就職活動まで、たくさんの含蓄あるお話をしてくださった波頭さん。
厳しい言葉もありましたが、お話を直に聞くと優しい雰囲気の中にも

「日本の大学生に、日本を背負える、そして世界を背負える人材になってほしい」

という強いお気持ちが伝わってきた。


最後に、「大学生へメッセージをいただけますか?」

とのリクエストに、波頭さんはこう答えてくださった。


波頭;
頑張って勉強してください。
学生っていうのは、立派な人間になることを目的とした、時間の使い方がすごく自由にできる時間、時期です。
特権的な身分ですよね。
働くようになったら、お金をもらうために拘束されます。

だから、学生は、ほんとに自由に時間を使える時間です。


だから、人格とか教養の豊かな人間になるために、本を読むのでもいいし、あるいは、ある特別な分野で、例えばさっきの西ベルリン音楽学校の学生達のように、自分の時間とエネルギーをバイオリンが上手くなることに集中的に使うことも考えられます。
まさに、自分がどういう人間になりたいか、どういう人生を生きたいかっていうために、好きに時間を使って欲しいです。

ただ現実の多くの学生さんは、日々怠惰なことが多いです。



そう・・・かもしれません。



波頭:
怠惰は怠惰でいいんだけれど、あとで、今の1年間の怠惰を取り戻そうと思ったら、仕事しながらだったら5年も10年もかかります。
学生時代の、ハタチ前後の、学生という身分での時間の使い方のレバレッジっていうのはすごく大きいから、頑張ってほしいです。





なるほど。
私はやっぱり何かの分野で一流のプロになりたいし、仕事で人を感動させられる人になりたい。
そのために今何かできるかといえば、やっぱりしっかり勉強することだな。

若者時代に流さなかった汗は、老人になった時の涙になる。

って聞いたことあるけど、そうならないように、頑張ろう。






おまけ!
波頭さんオススメの1冊。

究極の鍛錬

究極の鍛錬

究極の鍛錬

→前編に出てきた西ベルリン音楽学校のお話が載っている本です。勝間和代さん訳のマルコム・グラッドウェル著「天才」と一緒にどうぞ。
天才!  成功する人々の法則

天才! 成功する人々の法則


指輪物語

文庫 新版 指輪物語 全10巻セット (評論社文庫)

文庫 新版 指輪物語 全10巻セット (評論社文庫)

→波頭さんが「異常なほど」何回も読んだ、という本。瀬田貞二さんの訳が素晴らしいそうです。


フェルマーの最終定理

フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで

フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで

→波頭さん曰く「心が震えるほど良かった」1冊。300年以上謎だったフェルマーの公式を解き明かすまでのストーリーです。


プロフェッショナル原論

プロフェッショナル原論 (ちくま新書)

プロフェッショナル原論 (ちくま新書)

→波頭さんが書かれた本です。「生き方が変わった」「勇気をもらった」とのお手紙が未だに絶えないそう。
私も読みましたが、素晴らしかったです。多分このインタビューがもっと分かるようになると思います。




〈インタビューを終えて〉

さて、いかがだったでしょうか?
私は、圧倒されまくりの一時間半でした。

耳が痛い話もたくさんあったかもしれません。


でもブログに書いてあることが

「そうかもしれない」

と少しでも思うなら、気持ちの上での「ラーニングゾーン」にいるはず。

しんどいけど、大変そうだけど、でもやらなくちゃ。そう思う時が一番成長のチャンス、伸びるチャンスだと思います。
そして、その努力を質のいい状態で継続すること。

100人いたら、10人がチャレンジし、1人が継続することができるそうです。
その1人になれば、もう倍率100倍を突破してるから、新しい世界が見えてくると思います!
しかも競争相手は自分だけ。

というか偉そうなことたくさん書いたけど、一番焦っているのは自分でしょ。
こんなことブログに載せちゃったら、この内容に沿う人にならなくちゃ・・・。
うおおっほーい

私事ですが、来週からアメリカでの授業がいよいよ始まります。
とても大変になる予定・・・
なので、辛いときには波頭さんの言葉を思い出す予定です。

頑張ろうっと!!!!!!


最後になりましたが、お忙しい中時間を割いてくださった波頭さん、株式会社XEEDの皆さん、本当にありがとうございました。
そして、記事を読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました。